総合物流施策大綱


平成9年4月4日
閣議決定

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第1 基本的考え
 (1) はじめに
 我が国の物流は大きな転換期を迎えている。
 世界経済のグローバル化が一層進展する中、企業が立地する国を自由に選ぶという国際的な大競争時代が到来しており、我が国経済の新たな発展の可能性を拓いていくためには、高コスト構造を是正し、消費者利益を確保すると同時に、我が国の産業立地競争力を強化する必要がある。このような状況下で、物流のあり方は、国や地域における産業立地競争力の重要な要素のひとつとして認識されるに至っている。
 一方、情報通信技術の革新や国際分業体制の一層の進展という環境変化に加えて、流通コストや流通システムに対する需要者の意識が高まってきた結果、物流に対する国民ニーズは極めて高度で多様なものとなっている。例えば生産分野では、在庫管理技術を極限まで進めたグローバルなジャスト・イン・タイムの調達が可能となりつつある。さらに、流通分野でも、従来の生産者サイドに立ったシステムから、消費者を起点として、小売、中間流通及び生産者の各機能を強化したシステムの構築が始まりつつある。加えて、インターネットの利用によって活性化している通信販売は、個々の消費者に対応した多様・迅速・確実な物流を必要とするようになった。
 また、このような社会経済情勢の変化や技術革新を適切に捉え、変貌するニーズに対応して、輸出入、製造、保管、売買、消費、廃棄といった様々な経済活動に関わる物流サービス全般の機能が高度化・高付加価値化されなければ、ユーザー側産業も含め我が国産業全体の競争力の強化や多様な消費者ニーズの充足も同様に困難である。加えて、物流分野は、エネルギー問題、環境問題、交通渋滞等の社会的課題に応えていくことも求められている上に、情報化・国際化に対応した新しい業態・サービスへの取組みも必要とされている。
 したがって、関係省庁が物流全体に関する問題意識と目標を共有し合ってそれぞれが連携して施策を講じていくことにより、例えば、社会資本の相互の連携を進めることが重要である。また、ボトルネックの解消、我が国の国際港湾のアジアにおける地位の低下や貨物分野のエネルギー消費効率の低下などの様々な問題にも対応しなければならない。
 このような我が国物流への強い期待に応えるため、物流に関する総合的な取組みを強化することは、一刻の猶予も許されない喫緊の課題である。先に決定された「経済構造の変革と創造のためのプログラム」(平成8年12月17日閣議決定)においても、物流改革が経済構造改革の中でも、平成13年(2001年)までにコストを含めて国際的に遜色ない水準のサービスの実現が目指される分野として最重要の課題のひとつと位置づけられ、関係省庁が連携して物流施策の総合的な推進を図るため、本大綱が策定されることとなったところである。
 (2) 目標と視点
 上記の問題意識を踏まえ、今後政府は、おおむね平成13年(2001年)を目途に次の3点を実現することを目標として掲げ、総合的な物流施策に取組む。
@ アジア太平洋地域で最も利便性が高く魅力的な物流サービスが提供されるようにすること。
A このような物流サービスが、産業立地競争力の阻害要因とならない水準のコストで提供されるようにすること。
B 物流に係るエネルギー問題、環境問題及び交通の安全等に対応していくこと。
 この目標を達成するため、政府は、次の3つの視点に基づき、規制緩和の推進、社会資本の整備及び物流システムの高度化に関する施策を講じる。
 第1は、相互連携による総合的な取組みである。都市内物流、地域間物流及び国際物流の各分野にわたり、関係省庁間、ハード・ソフトの施策間、関係者間など、様々なレベルでの相互連携が求められている。例えば、社会資本相互の結節点の利便性の改善や物流のボトルネックを解消するための関係省庁間の連携、社会資本の効率的な利用に関してその整備(ハード面)と規制緩和や情報化(ソフト面)との連携、共同配送等地域毎の自主的な取組みを行う際の物流事業者、荷主と関係省庁、地方公共団体との連携等、様々な主体の間で協調して総合的な取組みを行うことが必要である。この際には、生産から消費、廃棄に至るまでの輸送や環境に係る社会的費用を最適化していくという観点からも取組む。
 第2は、多様化するニーズに対応した選択肢の拡大である。近年の技術革新に伴い、物流ニーズ面においても、情報共有を通じて生産・流通・消費過程全体を俯瞰してモノの流れを最適化していくという取組み(ロジスティクス)が強まっている。したがって、施策の展開に当たっては、通年・フルタイムのサービス、定時性、迅速性、温度帯別管理などサービスの水準において多様化するユーザーのニーズを重視して選択肢を広げ、陸海空の輸送モードの適切な選択が可能となるような環境を整備していくことが求められている。
 上記の相互連携と選択肢の拡大という観点からは、貨物輸送の重要性が旅客輸送に比べて国民に認識されにくいことに留意しつつ、規制緩和や社会資本整備を通じ、輸送モードが相互に連携した交通体系を確立するというマルチモーダル施策を推進していくことが特に重要である。これにより、各輸送モードが市場メカニズムに則りコストと利便性を競いつつ、かつ相互に連携して、多様なニーズに対応した最適の組合せのサービスの提供が可能となる。
 第3は、競争促進による市場の活性化である。他の産業分野と同様、物流分野においても、競争的環境の下で、より効率的な事業者の新規参入や事業拡大、公正な物流サービスの提供を通じ市場が活性化され、多様化・高度化している物流ニーズに対応した新たな業態・サービスが生み出されるような、国際的にも魅力的な活力ある事業環境を創り出していく。
 特に、国際複合一貫輸送、サードパーティーロジスティクス(荷主に対して物流改革を提案し、包括して物流業務を受託する業務)などの、多様化・高度化している物流ニーズに対応した業態・サービスが育成されるとともに、かかるサービスの市場への参入が促されるよう、規制緩和、情報化の促進等の総合的な物流事業の活性化施策への取組みが重要である。これらにより、物流分野においても、経済構造の変革を機に新たな飛躍へ向けて踏み出していくことが期待される。
第2 横断的な課題への対応
 総合的な物流施策の推進に当たっては、第3で述べる都市内物流、地域間物流及び国際物流の各分野に共通する、社会資本等の整備、規制緩和の推進、物流システムの高度化に関する施策といった横断的な課題について、次のとおり取組んでいく。
 (1) 社会資本等の整備
 物流に必要な社会資本については、環境の保全に配慮しつつ、モノの移動に係る時間の短縮とコスト縮減等に資するよう、受益者負担を基本としつつ、重点的・効率的な整備と利用効率の改善を図る。このため、国及び地方公共団体は、事業の計画、施設の運営・利用の各面において、次のとおり、効率化と重点化を進める。
   (社会資本整備のあり方)
@   物流に必要な社会資本の整備は、受益者負担を基本としつつ、ユーザーのニーズに対応した道路、鉄道、港湾、空港、物流拠点の相互連携、交通上ボトルネックとなっている区間・地点の解消及び国際ハブ港湾・空港の整備の3つの分野に重点を置きつつ進める。
 具体的には、都市圏における道路交通の円滑化、全国的な自動車交通網を形成する高規格幹線道路、この高規格幹線道路と一体となって幹線道路ネットワークを形成する地域高規格道路や物流拠点を結ぶアクセス道路の整備、主要幹線鉄道の貨物輸送力の増強、国際海上コンテナターミナル・多目的国際ターミナル・複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの拠点的整備、大都市圏における拠点空港の整備といった分野を物流における最重要課題として取組んでいく。
 この際、公共工事に費用と便益の数量的な評価の導入に努めていくことにより、物流に関する社会資本の整備に対する社会的な理解を増進しつつ、その事業を重点化していく。
   (社会資本の効率的利用)
A   社会資本の利便性と利用効率を改善し、利用コストを低減させるという観点から、各省庁及び地方公共団体において、社会資本の整備とその利用に関する規制の緩和や情報化、管理運営の効率化などとの一層の連携を図る。
   (民間による社会資本整備)
B   民間企業主体で整備され、又は管理運営が行なわれる物流に関連する施設・設備について、物流の効率化・高度化に資するよう、一層の支援等の環境の整備を検討する。
   (物流拠点の整備)
C   物流拠点は物流サービスの重要な結節点のひとつであり、都市内物流と地域間物流の連携の円滑化に資するほか、都市内交錯輸送の削減、様々な物流サービスの提供、物流共同化の促進、輸入の拡大等の社会的要請に対応した整備を図るとともに、情報化、自動化等を通じて保管・配送、流通加工等の各種の業務を高度に処理するための多様な機能を有する施設の整備を推進することにより、物流の一層の効率化・高度化に寄与することが期待される。
 したがって、地域社会における経済面及び環境面からの総合的な検討を行い、物流拠点の整備が地域の理解を得られるようにして、これを促進していくことが重要である。このため、平成9年度中に、地域に受け入れられる物流拠点のあり方について検討を行うとともに、物流拠点整備を進める上での指針を関係省庁が連携して策定する。
 (2) 規制緩和の推進
 物流に関するビジネスチャンスの拡大と事業者間の競争を促進し、物流コストの低減、サービス内容の多様化・高度化を図るため、政府は、次のような考え方に基づき、物流分野の規制緩和を推進する。
   (規制緩和のあり方)
@   物流分野の規制緩和は、物流市場への参入・退出に関わる規制を簡素化して、できる限り参入・退出を容易にするとともに、物流サービスの内容及び価格に関する政府の関与はできる限り縮小することで、事業者間の競争を促進することを基本とする。
 中でも、物流分野の参入規制については、必要な環境・条件整備の措置を講じつつ、原則として、おおむね3〜5年後を目標期限として需給調整を廃止することとし、規制緩和推進計画において示された手順、スケジュール等に沿って進める。
 なお、競争制限的な行為に対しては独占禁止法の厳正な運用を行う。
   (安全規制のあり方)
A   一方、安全規制は、その厳正な運用が図られることとともに安全が確保されるものであることを前提としつつ、近年の技術水準の向上を踏まえてコストの低減や輸送効率の改善を図るという観点と、我が国独自の規制があれば国際的に調和のとれたものとするという観点に立って、民間からの要望も勘案しつつ規制の見直しを検討し、規制緩和推進計画の着実な実施を図る。
 (3) 物流システムの高度化
 社会資本等の整備及び規制緩和の推進に加え、国及び地方公共団体は、次のとおり、情報化、標準化、技術開発及び商慣行改善といった物流システムの高度化に資する施策により、民間事業者の物流高度化への取組みを促す。
   (情報化の推進)
@   近年の情報通信技術の革新によって、情報の瞬時の伝達、広範な共有及び大量の情報の保管・処理が可能になり、経済活動全般にわたり情報化が進展し、電子商取引が普及し始めている。物流効率化を進めるには、在庫管理、受発注、ピッキング、仕分、集荷、配送、検品、店頭管理などの業務全般においてこうした技術を有効に活用して、情報化に対応していくことが不可欠である。このため、システムの相互運用性・相互接続性を確保して、関係者間の情報の伝達及び共有をできる限り円滑化して、情報化による便益をより広範に享受できるようにしていくことを基本とする。
 具体的には、物流分野の電子商取引を推進していくため、必要なソフトウェア開発、実証実験及び商取引データに関するシンタックス(電子データ交換(EDI)の構文)、メッセージ(EDIのデータ項目)等ビジネスプロトコル(EDIに使われるデータ項目について名称、属性、内容、桁数等を定めた定義集)の標準化を行う。
 中でも、国内陸上貨物取引及び輸送・保管の分野において、複数の端末機の設置等による重複投資、重複入力といった問題を解決しつつ、同業種間のみならず異業種間の企業においても効率的な情報交換を可能にするため、荷主と陸上運送事業者等との間の電子計算機の連携利用に関する指針を平成9年夏までに策定して、EDIの導入を進める。さらに、陸上貨物輸送分野で利用されている物流EDI標準メッセージの利用分野を拡大させて、倉庫分野の標準メッセージの作成及び中小企業向けソフトウェアの開発を促す。
 また、国及び地方公共団体が輸出入、出入港等の行政手続において率先して情報化によるペーパーレス化及びワンストップサービスの実現に取組む。
   (標準化)
A   物流システムの総合的な標準化を図るため、コンテナについては平成12年度までに、パレットについては平成10年度までに、国際標準との整合化を踏まえて工業標準の見直しを行う。また、我が国として国際標準化活動に主導的に参画していく体制を整備する。
 さらに、物流を含めた流通全体の情報化に資するよう、2次元コード、データキャリアや商取引データの国際標準化を進めるとともに、従来の個装単位のJANコード(共通商品コードシンボル)に加えて、ITFコード(標準物流シンボル)、コード128(輸送容器用連続コードシンボル)等の国際標準バーコードによる梱包単位でのマーキングの普及や商品情報データベースの整備、EDI化に対応した伝票及び梱包ラベルの標準化を図る。
 また、貨物のパレタイズ比率(貨物をパレットに積付けて輸送、保管等を行っている割合)の調査、一貫パレチゼーション(貨物をパレットに積付けたまま発送から到着の荷下ろしまでを一貫して行う輸送方式)に資する物流機器購入、輸送包装の開発・改良に対する支援等の施策により、パレタイズ可能貨物のうちのパレタイズ貨物の割合を高める。このため、これに資するよう、平成10年度から、パレタイズ可能な政府調達物資については、他のJIS規格パレットが一般的に利用されている分野を除き、一貫輸送用パレット(T11型)によるよう努める。
   (新技術の開発と利用)
B   陸上、海上、航空輸送の全分野にわたって衛星利用による位置確認システム(GPS)の活用を推進し、ナビゲーション、貨物位置確認等、物流システムの安全性と信頼性の向上に役立てる。
 また、道路交通情報通信システム(VICS)の全国展開等による道路交通情報の充実と積極的な活用、有料道路における自動料金収受システムの導入、交通管理の最適化など高度道路交通システム(ITS)に関する技術開発、実証実験、実用化及び標準化を通じた道路・交通・車両の情報化を進めることにより、トラックの輸送効率の改善を支援する。加えて、物流EDIの標準化などとともに、道路・交通・車両の情報化基盤が物流システムの効率化・高度化に寄与するための方策について関係省庁が連携して検討を進める。
 さらに、食品等の低温物流の必要性が増加していることから、冷凍車、冷蔵倉庫等の低温流通施設・機器及び機能性フィルム、保冷容器等の鮮度保持資材の開発・導入を促進し、生産地から消費地までのコールドチェーンシステム(低温物流一貫体系)の整備を促進する。
 加えて、浮体式海洋構造物のような新技術についても、その開発の進展に合わせて、例えば、シーバース、飛行場及び物流拠点への適用可能性について検討するとともに、新形式超高速貨物船(TSL)の技術の実用化に向けて検討を進める。
 また、デュアルモードトラック(一般道路では通常走行、専用走行路では自動走行が可能なトラック)などの新物流システムの関連技術の開発を進める。
   (商慣行の改善)
C   多頻度小口配送やリードタイムの短い発注等、労働時間の短縮や物流効率化の阻害要因となる等の社会的非効率を招くおそれのある商慣行を改善するためには、物流コストに関する価格メカニズムが有効に機能しうる環境の整備を進めるとともに、ユーザーの多様なニーズへの適切な対応が可能となる物流システムを、情報化、標準化などを通じて構築していくことが必要である。
 具体的には、商慣行調査の実施、物流コスト算定活用マニュアル及び物流合理化ガイドラインの普及等により、商品価格と輸送費、包装費等の分離表示、出荷の平準化・大ロット化、荷主による物流サービスの調達活動の透明化・効率化を促す。
 また、ECR、QR等のサプライチェーンマネジメント(商慣行の見直し、電子商取引の推進や取引単位の標準化などによる企業間連携を通じて消費から生産までの情報と物の流れを効率化することで、消費者ニーズを反映した商品をスピーディーに適正な価格で提供する仕組み)に係る技術開発及び実証実験を進めて、商流及び物流の両面から流通全体の効率化を進める。
第3 分野別課題への対応
 総合的な物流施策の推進に当たっては、既に述べた横断的な課題に対応するとともに、トラック、鉄道、海運、航空の輸送モード単位の観点だけではなく、次に述べるように、都市内物流、地域間物流及び国際物流という分野別の課題の観点からの取組みを行うことが重要である。
 (1) 都市内物流
 都市内物流については、地域間物流及び国際物流と連携して物流サービスの品質を向上させるため、物流拠点の整備、社会資本整備及び地域毎の自主的な取組みを通じて、都市内輸送を効率化するなどにより渋滞を緩和して、トラック輸送の定時性及び速達性を改善させる。
 また、渋滞緩和のための施策と併せて、自家用に比べて輸送効率の良い営業用トラックの輸送分担率及びトラックの車両積載率を向上させて、物流に係る消費エネルギーの増加を抑制するとともに、環境負荷の削減を図る。
   (道路交通の円滑化)
@   交通渋滞の解消等道路交通の円滑化を進めるため、バイパスや環状道路の整備、交通管制センターの高度化等を進める。また、企業、地方公共団体が一体となって、相乗りの推進、バスなどの公共交通機関の活用やフレックスタイムの導入等を行う交通需要マネジメント(TDM)施策に関する地域毎の取組みを拡大する。
 さらに、市街地における共同集配、都市内建築物への荷さばき施設の付置、商業地区を中心とした共同の荷さばき施設及び荷さばきのための路上停車施設の設置と適正な運用等についての地方公共団体の取組みや、配達ボックスの設置等による都市内物流の効率化を促進するため、関係省庁が連携した施策を講じる。
   (自営転換)
A   トラック輸送について、都市内物流及び地域間物流の効率化に寄与していくため、共同輸配送の実施や物流拠点の整備などによって貨物自動車運送事業の魅力を高めることにより、自営転換(荷主の自家用トラックから営業用トラックへの利用の転換)を進める。
   (物流拠点の整備等)
B   市街地外縁部の物流拠点の利用により都市内に流入するトラックの交通総量の抑制に資するよう、国際化、情報化、物流単位の大型化、食品等の温度管理の強化、防災、廃棄物物流といった新たな課題に対応しつつ、流通業務市街地の整備の促進、機能の強化を図るほか、都市内の最終需要者への仕分を行う集配拠点の整備を促進する。さらに、高規格幹線道路インターチェンジ周辺、工業団地及び臨海部における物流施設の立地を引続き進める。この際、工場跡地の活用、後背地を含めた土地区画整理事業等の面的な市街地整備により、機能的な物流拠点の整備を進める。
   (鉄道貨物及び河川舟運の活用)
C   都市内物流を効率化するため、それぞれの輸送機関の特性に応じて、鉄道貨物輸送による廃棄物輸送や国際物流の端末輸送等への活用等とともに、河川舟運の再構築を検討する。
 (2) 地域間物流
 地域間物流については、規制緩和の推進及び社会資本の整備というソフト、ハード両面にわたる施策の推進によるモード間の競争条件の整備を通じて、内航海運、鉄道及びトラックといった多様な輸送モードが自由に選択可能で、これによりモードの特性に応じて適切な役割分担がなされる交通体系の構築を目指して、マルチモーダル施策を推進する。
  このことにより、各輸送モード自身の効率化と合わせて、内航海運及び鉄道の活用により、適切なモード選択が促進され、コスト面では低廉で、サービス面ではドア・ツー・ドアの複合一貫輸送が実現し、環境面ではエネルギー消費量の増加が抑制されるとともに環境負荷の削減が図られる。
   (内航海運輸送の促進)
@   内航海運は、大量性、低廉性といった輸送特性を有し、鉄鋼、石油製品等の基礎素材物資の輸送の大部分を担い、我が国経済社会の発展にとって不可欠な輸送手段であることから、今後とも良質な輸送サービスの提供を図ることが必要である。また、雑貨輸送についても、特性を踏まえつつ、内航海運輸送の利用を促進する。
 具体的には、内航海運の一層の効率化を図るため、ハード面の施策として、船舶の大型化・近代化、荷役機器の近代化、全天候バースの整備を進める。ソフト面の施策としては、情報化や配船の共同化を進める。
 また、地域間の幹線輸送を行うための基盤として、十分な荷役ヤードと駐車スペースを有する複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの拠点的整備及び幹線輸送機能と都市内を対象とした端末輸配送機能とを結合するための物流拠点の整備を進める。
 さらに、意欲的な事業者の事業規模拡大や新規参入を促進し、内航海運業の活性化を図るため、規制緩和推進計画に沿って、船腹調整事業の計画的解消を図る。具体的には、規制緩和推進計画に定めるコンテナ船及びRORO船(荷役にクレーンを使わず、貨物をトラックやトレーラーシャーシごと積込む方式の貨物船)については、平成10年度末までに同事業の対象外とする。その他の船舶については荷主の理解と協力を得ながら4年間を目途に所要の環境整備に努め、その達成状況を踏まえて同事業への依存の解消時期の具体化を図ることとするが、同事業の解消の前倒しにつき中小・零細事業者に配慮しつつ引き続き検討する。内航RORO船を船腹調整事業の対象外とする時期に併せて、貨物フェリーの調整措置を廃止する。また、自家用船舶の届出の際の日本内航海運組合総連合会の意見書添付を平成9年度中に廃止する。
   (鉄道貨物輸送の促進)
A   鉄道貨物は、貨物輸送においてそのウェイトを大きく減少させてきたが、環境負荷の軽減、輸送効率の向上に資するよう輸送サービスの向上を図ることにより、幹線輸送など鉄道の特性がより発揮される分野における鉄道貨物輸送の利用を促進する。
 このため、主要幹線鉄道の貨物輸送力の増強を図るほか、鉄道と道路の連携を図るため、鉄道貨物ターミナルのアクセス道路の整備を進める。なお、鉄道貨物輸送基盤の整備に当たっては、その工事や運営に要する費用と経済上及び環境上の効果を踏まえつつ進めるよう努める。また、コンテナデポ等の複合一貫輸送用施設及びコンテナ等の複合一貫輸送用機器の整備を進める。
 また、貨物鉄道事業の活性化のため、日本貨物鉄道株式会社の経営改善を推進し、完全民営化の早期実現を図るとともに、国鉄改革の枠組みの中で同社の完全民営化等経営の改善が図られた段階で貨物鉄道事業の需給調整規制を廃止する。貨物鉄道運賃については、平成9年2月から上限価格制に移行したところであり、この制度の活用を積極的に推進するとともに、需給調整規制を廃止する時点において、上限価格制から届出制に移行する。
 さらに、鉄道貨物輸送の販売力を強化し、鉄道を利用する貨物運送取扱事業者の範囲が拡大して新規参入が促進され、貨物駅が幅広い利用により活性化されるよう、平成9年度中に集配車両に係る傭車制限の廃止等、貨物運送取扱事業法の運用の弾力化を行う。
   (道路及び広域物流拠点の整備)
B   地域産業を活性化し、活力ある地域経済の発展を促すため、第二東名・名神高速道路、大都市の環状道路、地方圏の横断道路をはじめとする高規格幹線道路やこれらと一体となって幹線道路ネットワークを形成する地域高規格道路等の道路ネットワークの整備等を図る。同時に、貨物輸送の効率化に対応するため、重要港湾、工業団地等の物流拠点を結ぶ重要な路線について、車両の大型化(総重量25トン)に対応した橋梁の補修・補強を実施する。
 また、港湾、鉄道及び空港のアクセス道路の整備等のマルチモーダル施策の推進により、陸海空の交通機関の特性を生かし、相互に連携のとれた輸送体系を確立する。
 さらに、地域間物流においても物流拠点の整備による幹線輸送の効率化・共同化が求められていることから、関係省庁が連携して、流通業務市街地の整備の促進、機能の強化を図るとともに、高規格幹線道路のインターチェンジ周辺等において、広域物流拠点と道路の一体的整備を進める。
   (トラック、トレーラー輸送)
C   トラック輸送の効率化と事業の活性化を進めるため、トラック事業においては、平成12年度までに、いわゆる経済ブロック単位で拡大営業区域を設定するとともに、最低車両台数を全国一律5台となるよう段階的に引下げる。
 また、幹線物流の効率化を図るため、トラックの共同運行を推進する。
 加えて、積載量の増加による運行コストの低減や、運行と荷役の分離やフェリー等の活用を通じた車両運用の効率化を図るため、トレーラー化を推進することとし、そのためにシャーシプールの整備に対する支援等必要な措置を講じる。
 (3) 国際物流
 国際物流については、手続の簡素化・情報化、規制緩和及び社会資本整備により、近年の輸入増加に対応した国際物流システムを形成して、国際物流に係るコストを低減させつつ、貨物が港湾及び空港の通過に要する時間を減少させていくこと等により物流サービスの水準を国際的に遜色ない水準にする。このことにより、我が国内外価格差の是正及び産業立地競争力の改善に寄与する。
   (ターミナルの整備と運営)
@   国際水平分業の進展等により急増する輸入コンテナ貨物に対応して、奥行きの広いヤード、高能率な荷役システム等を備えた国際海上コンテナターミナルの拠点的整備を中枢・中核国際港湾において進める。特に、船舶の大型化に伴い諸外国に比して立ち遅れた大水深の国際海上コンテナターミナルを国際ハブ港湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾及び北部九州の中枢国際港湾)において早急に整備し、国際的に遜色ない施設水準を目指す。この際、震災時においても最低限の物流機能を維持するために必要な国際海上コンテナターミナルの耐震強化を進める。
 加えて、港湾におけるコンテナのハンドリングコストの低減やサービスレベル向上のため、我が国の荷役に最もふさわしい高能率な次世代型のコンテナターミナルの技術開発を進める。
 また、一定量のばら積み貨物が集積する地域において、物流コストの削減に寄与するため、船舶の大型化に対応した大水深の多目的国際ターミナルの拠点的整備を進める。
 さらに、効率的なターミナル運営のあり方、適切な利用料金の設定方法について検討を進める。
   (港湾運送)
A   港湾運送事業においては、物流ニーズの多様化に対応して、事業の高度化を図っていくため、荷役の機械化・情報化を推進するとともに、共同化等による事業基盤の強化を進める。
 また、港湾運送事業の需給調整規制の廃止を含む見直しにつき、平成9年度における行政改革委員会の監視活動及びその結論を踏まえて適切に措置する。
 さらに、東京、横浜、名古屋、大阪、神戸、関門の主要港について日曜荷役の安定的確保等国際水準の稼働の実現に向け、関係者の取組みを促す。
   (手続の情報化・簡素化)
B   行政手続申請者の負担を軽減し、行政手続上の理由で輸出入貨物が港湾及び空港に滞留しないようにするため、輸出入手続及び港湾諸手続の情報化・簡素化を進める。
 具体的には、平成11年度までを目途に、外為法に基づく輸出入許可及び承認の手続と、主要港湾及び国際空港における出入港、検疫等の行政手続をEDI化して、既存の通関情報処理システム等との連携を図ることにより、輸出入及び港湾諸手続のペーパーレス化及びワンストップサービスの実現を目指す。
 また、通関情報処理システムのうち海上システムについて、平成11年度までに現行システムを更改し、輸入コンテナ貨物については入港前の予備審査制を活用して貨物の到着確認と同時の許可取得を可能にするとともに、輸出コンテナ貨物については事前にコンテナ扱いとして申出があった場合には輸出申告における申告項目を簡素化する等、機能強化を図る。
 さらに、これらの行政手続の情報化・簡素化の措置と連携して、民間における情報化の取組みを促していく。特に輸入コンテナ貨物については、入港から申告までの所要時間を縮小することにより、コンテナ船が入港してから貨物の搬出までの作業及び手続が、おおむね他の主要先進国並みの迅速さで処理することが可能となることを目指す。
   (輸出入貨物の国内陸上輸送)
C   ISO規格の国際海上コンテナ積載車両の通行については、平成9年度末までに、物流上重要な路線について橋梁の補修・補強を進め、特殊車両通行許可により、ISO規格の40フィート及び20フィートコンテナをフル積載した状態でのセミトレーラーの通行を可能とする。
 また、同車両の高さ制限については、欧米で一般的に用いられている車両の安全・円滑な通行を可能にするために要する費用と投資効果を十分勘案した上で、道路の高さに関する設計基準を見直すことも含めて平成9年度以降に検討を行う。
   (輸出入貨物の国内海上輸送)
D   輸出入貨物に係る国内輸送コストを縮減していくため、国内海上輸送の拡大を図るものとし、外貿バースへの内航船舶の接岸を容易にするよう関係者を指導する。また、外貿バースに隣接した内貿フィーダーバースの整備を計画的に進める。
   (国際海上輸送)
E   我が国の輸出入貨物の安定的な国際海上輸送を将来にわたり維持していくことが必要であり、我が国外航海運の国際競争力の強化を図るための施策を進めていく。
   (国際航空貨物の利用促進)
F   国際航空貨物の利用を促進するため、空港整備及び航空貨物輸送力の増大に対応して集荷力の強化を図る。このため、航空貨物を利用する貨物運送取扱事業者の範囲が拡大されるよう、平成9年度中に貨物運送取扱事業法の運用の弾力化を行う。
   (国際物流拠点の整備)
G   国際交流の促進や地域活性化のための地域の取組みを支援するため、関係省庁連携の下、港湾、空港、道路ネットワーク、広域物流拠点、情報化等の国際交流基盤に係る総合的な施策の伴った国際交流インフラ推進事業を平成9年度は全国13地域で推進する。
 また、増加する輸入物流を中心とした国際物流に対応しつつ交錯輸送を削減するよう、港湾及び空港周辺の物流拠点の立地を促す。具体的には、国際空港周辺、中枢・中核国際港湾及び輸入促進地域(FAZ)などにおいて、総合輸入ターミナルの整備をはじめとする物流拠点の整備を進める。
第4 今後の施策実施体制
 (1) 関係省庁の連携
 本大綱に掲げられた物流に係る課題の実現のためには、例えば社会資本の相互連携及びボトルネックの解消、物流拠点の整備、情報化の推進、都市内物流の共同化、道路交通の円滑化などにおいて、関係省庁間の連携が不可欠である。このため、関係省庁の連携体制を整備し、様々な局面において相互に連携して、施策の総合的な推進を図る。
 (2) 地域毎の連携
 本大綱で掲げられた物流に係る課題を実現するため、地域毎に、国の出先機関、地方公共団体、物流事業者、荷主等によって構成される協議会などの連携体制を整備し、物流に係る課題に関する関係者の問題意識の共有を図るとともに、これらの課題への取組みの方向性に関する取りまとめを行うことを通じて、施策の企画立案からその具体化に至るまでの様々な局面において相互に連携して、施策の総合的な推進を図る。
 (3) 大綱のフォローアップと改定
  本大綱の実施状況について毎年フォローアップを行い、社会経済情勢の変化を踏まえて、必要に応じて改定を行う。

(参考)

総合物流施策大綱に係る努力目標について

 本大綱の実施に当たっては、次の数値を物流の各分野の具体的な努力目標として、地方公共団体及び民間の協力を得た上で、政府としてその実現に向けて最善の努力を行っていくものとする。

     都市内物流については、トラックの積載率について、情報化・共同化や商慣行の改善に加え、営業用トラックの分担率を増すこと等により、21世紀初頭には、全体の積載効率が約5割の水準へ改善することを目指す。
     また、交通混雑緩和のため、交通容量拡大策、地域の自主的な取組みによるTDM施策及び民間事業者による物流システムの効率化・高度化への取組み等を推進し、三大都市圏の人口集中地区の朝夕の走行速度を、21世紀初頭には、25キロメートル毎時に改善することを目指す。
     地域間物流については、内航海運輸送の利用の促進に資するため、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルへの陸上輸送半日往復圏の人口カバー率を、21世紀初頭には、約9割とすることを目指す。
     国際物流については、平成13年度までに、港湾関連のコスト及びサービス水準を国際的に遜色ない水準にすることを目指す。
     特に海上での輸入コンテナ貨物については、平成13年度までに、船舶が入港して申告までに必要な時間を短縮することにより、入港してコンテナヤードを出るまでに必要な時間を現在の4〜5日から2日程度に短縮するとともに、国際海上コンテナターミナル等の整備により輸出入コンテナ貨物に係る陸上輸送距離を短縮し、我が国の輸出入コンテナ陸上輸送費用総額を、現状のまま推移した場合と比較して21世紀初頭に約3割削減することを目指す。  標準化については、製造業、流通業等の荷主に対する一貫パレチゼーションの推奨及び支援措置により、パレタイズ可能貨物のうちのパレタイズ比率を現在の約7割の水準から平成13年までに約9割に向上させること等のユニットロード化(貨物を機械器具による荷役に適するよう標準化された単位にまとめて梱包して輸送・保管すること。)を進め、現在の約2割強の水準の全体のパレタイズ比率が約3割の水準になることを目指す。

(注)

上記の努力目標については、統計上の制約が見込まれ、かつ、政府の措置とともに民間の取組みが不可欠な分野もあることから、あくまでも施策を講じる際の参考として、幅を持ってみるべきである。

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